「暑熱順化」とは
「暑熱順化」とは、徐々に体を暑さに順応させることで、「暑熱順応」とも呼ばれます。
冬から夏になるにつれて徐々に体は暑さに順応していきますが、近年では暖房・冷房の室内快適化により、寒暖に順応する体の機能が弱くなって暑さにバテてしまう人が多くなっています。熱中症が増えたのも暑熱順化が不十分であることが要因の一つであると指摘する専門家もいます。
暑熱順化には「発汗」が最も大事
熱中症・夏バテの予防となる「暑熱順化」に有効な対策は、ずばり「発汗」です。
体温が低く汗をかきづらい冷え性の人や、日頃から水分不足の人、運動不足の人は要注意。また、年齢が上がるにつれて発汗機能も衰えがちです。
そもそも、汗をかくとなぜ暑さに順応しやすいのでしょうか?
汗と一緒に熱が逃げる
体には、暑い環境にさらされたときに体温が上昇しすぎるのを防ぐために、熱を体の外へ逃がそうとする熱放散機能が備わっています。その一つが「発汗反応」です。汗が蒸発するときの気化熱により熱放散を行い、体の内側にこもった熱を外に出します。
暑い夏にカレーを食べたくなるのは、汗をかくことで暑さを外に逃したくなる心理なのかもしれません。
血流が良くなると熱が逃げる
もう一つ、熱を放散する機能として「皮膚血流反応」があります。こちらは皮膚の血管を拡張させ血流を増やすことで、熱が体の表面から体の外へ放出される機能です。お風呂から出たらすぐ服を来なさいと言われたのは、この「皮膚血流反応」で入浴後に体が冷えることを予防するためですね。
汗をかける体になる!暑熱順化の方法
今年の夏は暑さに負けずに過ごせるよう、「暑熱順化」できる体を目指しましょう。
夏の暑さに順応するためには、“暑くなってから”ではなく“本格的に暑くなる前から”の準備が大切!「汗をかける」体を作っておくことで夏本番にも対応できます。
1.ウォーキング
暑熱順化に効果的な「発汗」と「皮膚血流反応」は、運動が最も効果的。手軽に取り組めるのは「ウォーキング」です。
ウォーキングなどの有酸素運動は「20分以上続けなければならない」と思われがちですが、最近の研究では短い時間でも効果があると言われています。また、ちょっと速く歩くだけで全身運動になり、ランニングと同等程度の運動効果も。「朝の仕事前に」「朝の子どもの送迎後に」「買い物の往復に」「夕飯の後に」など、自分のペースで「10分」で効果がありますので取り組んでみてください。
慣れてきたら、走行距離や速度アップを目標にしてステップアップしていきましょう。
2.サイクリング
疲れがたまりづらい「サイクリング」も、運動初心者さんにおすすめの運動。サイクリングの場合は、発汗まで少し長めの時間おこなうといいでしょう。
サイクリングロードがある河川敷沿いなどは景色もよく乗りやすいです。変速機がついている自転車の場合は少し重めにしてみるか、または軽くして足を早く回してみると運動効果が上がります。自転車に乗る場合は、ルールを守って、歩行者はもちろん一般道の場合は車にも十分に注意するようにしましょう。
3.筋トレ
雨の日や忙しい日でもスキマ時間にサッと実践できる「筋トレ」。筋肉量が増えると血行が良くなり、「皮膚血流反応」や「発汗」が促され汗をかきやすい体になります。
筋トレは、週2〜3回、1回20分を目安に取り組みましょう。毎日異なる部位を鍛えると全身のシェイプアップにも。「今日は腹筋、明日は大臀筋(だいでんきん)」といったように部位を意識して鍛えるのも楽しいですよ。
誰でも簡単にできる「プランク」もおすすめです!筋トレ初心者はプランクから始めてみても。
4.入浴
夏はシャワーだけで済ませる方も多いですが、しっかりお風呂につかることが暑熱順化には大切です。体を芯から温めると深部体温が上がり、汗をじっくり出せるようになります。1日2回くらいは入浴できるといいですね。38〜40度のややぬるめのお湯であれば20分以上ゆっくりと、41度を超える場合は5〜10分でOK。期待通り発汗したら、水分を補給してください。
5.サウナ
入浴よりも暑い室温で発汗を促すサウナは、汗をかける体づくりにより効果的です。
血流が通常時の2倍も良くなり、発汗も大量。体の隅々まで必要な酸素や栄養を届けることもできます。また、サウナならではの「ヒートショックプロテイン」効果で、免疫力もアップ。サウナが人気の理由は以下の特集ページで紹介していますので読んでみてくださいね。
6. 冷房に頼り過ぎない
気温が上がるとつい冷房をつけたくなりますが、涼しい環境にばかりいると体が暑さに弱くなってしまいます。「①冷房の温度を高めに設定する(28度前後)」「②朝夕は室内に外気を取り入れる」「③つけっぱなしは避ける」を意識して、冷房に依存し過ぎないよう注意しましょう。
暑熱順化トレーニングはいつから始めるといい?
夏前からの準備がおすすめですが、思い立った日でOK!
体は暑さや寒さに急に順応できるわけではなく、暑熱順化のためにトレーニングをはじめたとしても1〜2週間程度かかります。5月ごろから暑熱順化トレーニングをスタートさせると本格的に暑くなる前にしっかり発汗する体に仕上がっているでしょう。
もちろん夏になってからでも効果はあるので、今日からでもちょっとした運動をはじめてみてください。
暑熱順化トレーニングの効果はいつから期待できる?
1〜2週間後から暑熱順化の効果が
暑熱順化トレーニングの効果には個人差があり、トレーニングの負荷も大きく影響します。
一般的な運動量であるウォーキングやサイクリングなどのトレーニングを続けて発汗した場合は2週間程度で効果が出てくるでしょう。海やBBQなど、夏の屋外イベントもバテずに楽しめるよう、「発汗習慣」をつけておくといいですね。
夏におこなうスポーツやイベントの準備にも
筋トレやジョギングなどの高負荷なトレーニングを行った場合は、数日〜1週間程度で効果を感じることも。暑い季節に屋外でマラソンやスポーツを行う場合は、暑熱順化トレーニングをしておく選手も多くいます。1週間程度前から準備しておくと、夏の暑さにも負けないパフォーマンスを発揮できるでしょう。
暑熱順化トレーニングで得られるうれしい効果
「暑熱順化」ができる体づくりをすると、他にも嬉しい変化を感じることができます。
筋肉量が上がり、病気の予防にも
筋肉には運動機能以外にも、様々な役割があるのはご存知でしょうか。
糖と脂質の代謝をよくして血糖値の上昇を抑える、ホルモンの生成をするなど、病気の予防にも筋肉は一役買っています。筋肉量が増えると健康寿命が延びるという研究結果が出ている今、運動で筋肉をつけることは長い人生を元気に過ごすためにとても重要なのです。
血流が良くなり、冷え性や肩コリも解消
暑熱順化トレーニングである「発汗習慣」は、血流の改善にもつながります。
夏でも足先が冷たいといった「冷え性」が改善したり、「肩や腰のこり」がほぐれたり、ちょっとした体の不調が解消されます。
汗をかくことで美容効果も
汗をかくとお肌によいと言われています。毛穴に詰まった老廃物や角質がはがれ落ち、ターンオーバーが促されます。また、汗は皮膚の表面にある皮脂とも混じり合い、天然の保湿にも。運動をしている人に潤いがあるのはそのおかげかもしれません。
また、血流が良くなることで体の栄養素を隅々まで届けることができ、体の内側からもキレイになります。顔の血色も良くなりますね。
運動や入浴はリラックス効果も
運動にはネガティブな気分を発散させたり、ココロとカラダをリラックスさせ体のリズムを整える作用があります。運動をして「スッキリした!」と思ったことはありませんか?
入浴も筋肉や緊張を和らげる作用があります。運動と入浴は、カラダだけでなくココロにも良い影響を与えてくれるのです。
熱中症・夏バテ対策は自身の健康の見直しにも
暑熱順化のために運動を始めることで、心身の調子も整い、良いことづくし。運動習慣は健康寿命にも繋がり、毎日を快適に元気に過ごせるようになります。夏に負けない体づくりをきっかけに、一年中快適に過ごせるようになりそうですね。夏バテは体の機能が衰えてきた体からのサインかもしれません。最近夏がつらいな…と思った人は、少しの運動から始めてみませんか?